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技術発達史

酢 酸 ビニル製 法 の過 去,現 在, そ して将 来


つとむ

大 前 〓*

Review on Synthetic Methods of Vinyl Acetate.

Tsutomu OHMAYE*

Process, catalyst, and reaction mechanismfor vinyl acetate synthesis have been reviewed.
Progress and improvementare discussed in the followingsections,
(1) acetylene-based process, (liquid- and vapor-phase)
(2) ethylene-based process, (liquid- and vapor-phase)
(3) carbon monoxide-basedprocess,
and, as additional item,
(4) newer ethylene synthesis from methane comprised in dry natural gas.

酢 酸 ア ル カ リ と遷 移 金属 と を助 触 媒,シ リカ を担 体 とす
1. は じ め に
る。
酢 酸 ビ ニ ル の製 法 は1912年,F.Klatteが アセチ レン c) エ チ リデ ンジ ア セ タ ー ト(略号EDA)法
と酢 酸 とか らの エ チ リデ ン ジ アセ ター ト合 成 時 の副 反 応
と して発 見 したの に始 まる 。 以 来 下記 の諸 製 法 に次 々 と (3)
推 移 して き たの で あ る。 液相 プ ロ セ ス は触 媒 に芳 香 族 ス ル ホ ン酸 を用 い る 脱 酢

(な お 本 稿 で はAcOと い う略 号 はCH3C-O-基 を意 味 酸 反 応 で あ る 。 気 相 プ ロ セ ス は ア ル ミ ナ に よ り220℃


す る。)=O で接 触 分 解 す る。

a) ア セチ レ ン法 ち な み に,エ チ リ デ ン ジ ア セ タ ー トの 合 成 法 に は

(1) (c-1) ア セ チ レ ン と酢 酸 の 付 加 反 応(1910年 頃)

酢 酸 に対 す る ア セチ レンの付 加 的 ビニ ル化 と も,ア セ (c-2) ア セ トア ル デ ヒ ドと 無 水 酢 酸 の 付 加(1947年)


チ レ ンに対 す る酢 酸 の アセ トキ シ ル化 と も解 せ られ る 。 (c-3) 酢 酸 メ チ ル,一 酸 化 炭 素(CO),水 素 との反応

液 相 プ ロ セ ス の触 媒 は硫 酸 水 銀,リ ン酸 水銀 (Halconプ ロ セ ス)(1975年)

気 相 プ ロ セ ス の触 媒 は酢 酸 亜 鉛-活 性 炭担 体 (c-4) 無 水 酢 酸 と 水 素 と の 反 応(1977年)


b) エ チ レ ン法 な どが あ る 。

2. ア セ チ レン法
(2)
酢 酸 に対 す る エ チ レ ンの 脱 水 素 的(ま たは 酸化 的)ビ ニ 1913年 ∼1969年 の 間,世 界 的 に主 流 を 占 め た 製 法
ル化 と も,エ チ レ ンに対 す る酢 酸 の オ キ シ ・アセ トキ シ で あ っ た が 最 近 で は 全 世 界 生 産 約200万 ト ン/年 の10
ル化 と もい え る。 液 相 プ ロ セ スの 触 媒 は塩化 パ ラ ジ ウム %以 下 に減 退 して しま っ た。 そ の 主 因 は原料 アセ チ レ ン
を主触 媒,酢 酸 ア ル カ リを助 触 媒(ま た は促 進 剤),塩 化 の コ ス ト高 の た めで あ っ て,技 術 的 原 因 で は な か った 。
銅 と酢 酸銅 とを レ ドック ス触 媒 とす る。 気 相 プ ロセ ス の
触 媒 は 金属 パ ラ ジ ウ ム また は酢 酸 パ ラ ジ ウ ム を主 触 媒, (4)

* 日合 ア セ チ レ ン(株)( * NichigohAcetylene Co. Ltd. (


) )
* (元) 日本 合 成 化 学 工 業(株)( * Nippon Gogsei Co . Ltd.

) )
691
692 有機 合 成 化 学 第45巻 第7号 (1987) (70)

主 触 媒 は水 銀 カ ド ミウ ム,亜 鉛 の2b族 元素の塩。 水 銀 触 媒 系 で は80∼85%,リ ン酸 水 銀 触 媒 系 で は


2.1. 液 相 プ ロ セ ス1'2) Shawinigan社,DuPont 97%,ア セ チ レ ンの 選 択 率;70∼80%,で あった。
社 な ど米 国 で は戦 後 しば ら く迄,日 本 で はチ ッソ,日 本 副 生 物 の 生 成 率(対 消 費 酢 酸);エ チ リデ ン ジ ア セ ター
合 成 な ど昭 和10年 代 だ け稼 働 して い た。 ト3∼25%,無 水酢 酸2.4%,タ ー ル分 若 干,で あ る。
○反 応 器;か くはん 反 応 槽 ま た は気 泡 塔 で ガ ス連 続 吹 き ○原 単 位(酢 酸 ビ ニ ル1ton当 り);ア セ チ レ ン337 .3kg,

込 み式. 酢 酸776kg,酸 化 第 二 水 銀3.75kg


○反 応 条 件;反 応 温 度30∼70℃,反 応 圧 力 常 圧,ガ ス ○反 応 操 作;ア セ チ レ ン は所 要 理 論 量 よ り過 剰 に反 応 液

空 間速 度(反 応 液 体 積 に対 し)1500hr-1,触 媒系 は酸 に吹 き込 む。 これ に よ り生 成酢 酸 ビニ ル は蒸 発 で追 い
化 第 二 水 銀2.5%に 硫 酸 ま た は リン酸 を添 加, 出 し冷 却 管 で 凝縮 捕 集 す る 。廃 触 媒 は塔 底 か ら ス ラ ッ
○反 応 成 績;触 媒 の1ラ イ フサ イ クル の 生 成 合計 量 は, ジ と して 取 り出 して,ば い焼 して酸 化 第 二水 銀 と して
硫 酸 水 銀 系 触 媒 で は110∼80kgVAc/kgHgOで あ り, 回 収 す る 。 こ の プ ロ セ ス の フ ロ ー シー トを図1に 示
リ ン酸 水 銀 系 触 媒 で は14∼12kgVAc/kgHgO,で あっ す。

た。 酢 酸 の 反 応 率;66∼72%,酢 酸 の 選 択 率;硫 酸

Fig. 1 Vinyl acetate process based on acetylene (liquid


phase).
別 法 と して 触媒 に 水銀 塩 の代 わ りに酢 酸 亜 鉛 を用 い る 気(モ ル 比 は1.3∼1.7:1)を 吹 き込 む 。 酢 酸 の 反 応 率 は

加 圧 液 相 法3)が 研 究 的 に検 討 され た。25気 圧の アセチ 15∼17.5%,触 媒 液 の 体 積 に 対 す る 空 時 収 量 は25∼44

レ ンを170℃ で酢 酸 亜 鉛 含 有 の 酢 酸 と反 応 させ る際 に, grVAc/1-hrを 得 て い る。
ピ リ ジ ンか ジ メチ ル アニ リ ンの よ うな ル イ ス塩 基 を添 加 2.2. 気 相 プ ロ セ ス1,2.5) 1940年 以 降,30年 間

す る と単 流 収 率値 で 酢 酸 ビニ ル が19∼23%で 得 られ, 主 流 を 占 め た 。 前 半 は 固 定 触 媒 方 式 が 用 い ら れ,多 管式

そ の他EDAが5∼7%,樹 脂 状 物 が5∼8.6%と そ れぞ 触 媒 内 置 式(Wacker社 タ イ プ,ダ イ セ ル,ク ラ レ)と 箱

れ 副 生 した 。 これ らの 場 合 の酢 酸 変 化 率 は42∼51%で 型 触 媒 外 置 式(Hoechst社 タ イ プ,日 本 合 成)と が あ っ た 。

あ っ た 。 も う一 つ 別 法 は常 圧 溶 媒 法4)と も い え る も の 1956年 以 降 は 流 動 触 媒 方 式(京 大 化 研 古 川 研 の 開 発)が

で あ って 触 媒 の作 用 機構 の研 究 目的 に 実験 され た の で あ ク ラ レ,日 本 合 成,DuPontの 三 社 に よ り 工 業 化 さ れ,

る。 各 種 置 換 ベ ンゾ フ ェ ノ ンに5%量 の酢 酸 亜鉛 を溶 か そ の 他 も殆 ん ど こ れ に 転 換 し た 。
し,220∼240。Cの 加 熱 下 に アセ チ レ ン と酢 酸 の混 合 蒸 ○触 媒;酢 酸 亜 鉛20∼30部 を 活 性 炭100部 に担 持 させ
(71) 酢 酸 ビニ ル製 法 の過 去,現 在, そ して 将 来 693

る 。 活 性 は 担 体 の 多 孔 性 の 影 響 が 大 き く,そ の 活性 炭 酢 酸 は95∼98%,ア セ チ レ ン は92∼96%,副 生物


のBET面 積 は1,000∼1,500m2/gで,細 孔 の平均 直 は ア セ トア ル デ ヒ ド,ク ロ ト ン ア ル デ ヒ ド,エ チ リデ

径 は20∼40A,細 孔 容 積0.6ml/9が 適 当 と され る。 ン ジ ア セ タ ー ト な ど の 副 生 率 各 々1%以 下,空 時収


○ 反 応 条 件;反 応 温 度170℃(初 期)∼220℃(終 期),ア 量100∼150g-VAc/1-Cat・hr,
セ チ レ ン/酢 酸 の 混 合 モ ル 比1.5∼4.0,混 合 ガスの空 ○ 原 単 位(酢 酸 ビ ニ ル1tonに 対 し)1)

間 速 度200∼400hr-1,反 応 圧 力 は常 圧 。 ア セ チ レ ン290∼310m3(340∼364kg),酢 酸
○ 反 応 成 績;触 媒 の 寿 命1,000∼1,500hr,反 応 率 酢 730kg,活 性 炭3∼4kg,酢 酸 亜 鉛2kg。

酸 は25∼40%;ア セ チ レ ン は12∼16%,選 択 率 ○ フ ロ ー シ ー トは 図2に 示す。

Fig. 2 Vinyl acetate process based on acetylene (vapor


phase)

気 相 法 の 特 長 は1)連 続 反 応 で あ るか ら長 期 間 の 定 常 に酢 酸 に対 す る アセ チ レ ンの ビニ ル化 に よ り酢 酸 ビニ ル
運 転 が 可 能 で 自動 化 も容 易,2)触 媒 は廉 価 な 亜 鉛 に 転 を生 成 す る とい う,こ の反 応 の主 触 媒 は第2b族 の遷 移
換 。3)逐 次 副 反 応 が 抑 制 され てEDAな どの 副 生 減 少 。 金 属 イ オ ン に限 られ て い る 。
4)従 っ て選 択 率 が 大 幅 に向 上 し,モ ノマ ー 品 質 も良好 。 こ れ の反 応 機 構 はそ れ らの 金属 イ オ ンに ア セ チ レ ンが
この気 相 法 を更 に 固定 触 媒 式 か ら流 動 触 媒 式 に改 良 し π錯 体 的 に配 位 結 合 し,次 い で σ錯 体 に転 移 し,そ して
た こ と に よ り,触 媒 層 内 の 温 度 分 布 均 一 化 → 反 応 温 度 分 解 して酢 酸 ビニ ル を生 成 す る もの で 液相,気 相 の両 プ
10∼20℃ の 低 下 設 定 が 可 能→ アセ チ レ ン重 合 物 の 減 少 ロ セ ス とも に普 遍 的 に適 用 され る機構 で あ る2,4,6,7)。
→ 触 媒 寿命 の延 長 とモ ノマ ー と して の 品質 向 上 → スペ ン そ の反 応 機 構 を図3に 示 す 。
ト触 媒 が 固結 せ ず ス ム ー ズ に取 り出せ る,な どの 波 及 効 な お こ の錯 体 の 形 につ い て は研 究 者 に よ っ て小 異 が あ
果 と利 点 が加 わ った 。 逆 に二 つ の問 題 点,即 ち触 媒 の 摩 っ て[H2C=CH-Zn-(OAc)3]2-の4配 位 型7)の 説 もあ
粍 損 失 と触 媒層 吹 き抜 け の トラ ブ ル が現 わ れ た。 前 者 は る が,ア セ チ レ ンー亜 鉛(ま た は水 銀)塩 錯 体 を経 由 す る
ヤ シ殻 系 の よ うな硬 質 活性 炭 に よ り,後 者 は多 孔 オ リフ とい う大 筋 で は一 致 して お り古 川,大 塚 の機構 説 と稻 し
ィス板,多 孔 焼 結 金属 板,多 孔 質 セ ラ ミ ック板 な ど を塔 得 る。
底 ガ ス吹 き込 み 口 に使 用 して い ず れ も解 決 済 み と な って な お 図3の 機 構 は他 の ビ ニ ル化 反 応 に も当 て は め 得
いる。 る も ので あ って,例 えば 酢酸 亜 鉛 の代 りに塩 化 第 二 水 銀
2.3. ア セチ レン法 の反 応機 構 以上述べ た よう と し,酢 酸 の 代 り に塩 化 水素 とす れ ば,即 ち ア セチ レン
694 有機 合 成 化 学 第45巻 第7号 (1987) (72)

( Ac means CH3COradical.) 体 が 活性 種 で あ る とす る錯 体 触 媒 説 を支 持 し,酸 触 媒 説


に は 賛成 で きな い の で あ る。

3. エ チ レン 法

エ チ レ ンか らの酢 酸 ビニ ル合 成 法 の 発 見 は1960年 に
π - COMPLEX
1.1.Moiseevら が,エ チ レ ン法 ア セ トア ル デ ヒ ドの合 成
反 応 に お い て反 応 剤 の 水 の 代 り に酢 酸 を用 い,且 つ酢 酸
ナ トリウ ム を添 加 した と ころ,酢 酸 ビニ ル が次 の式 の よ
う に生 成 した こ と に始 まる10).

σ - COMPLEX

(10)
そ して この 還 元 され た 金属 パ ラジ ウ ム を効 率 よ く酸 化
して,高 活 性 の触 媒 に す る こ とに 関 して激 しい 開発 競 走
が 行 われ たの で あ る11∼13)。そ の結 果ICI11),Hoechst12),
Fig. 3 Reaction mechanism of acetylene-based vinyl
acetate process. 日本 合 成13)の 三 社 が そ れ ぞ れ 独 立 に次 式 の 一段 酸 化 の

(Ac means CH3CO radical.) 液 相 プ ロセ ス の 開発 に成 功 した。

法 の塩 化 ビニ ル の生 成 機 構 とな る。 ま た触 媒 を硫 酸 水 銀
と し,酢 酸 の代 りに水 とす れ ば ビ ニ ル ア ル コ ー ル経 由 の (11)
アセ チ レ ン法 ア セ トア ル デ ヒ ドの機 構 と な り,い ず れ も エ チ レ ン法 アル デ ヒ ドの場 合 と異 な り,Wackerプ ロ
同 類 の 錯 体 的 中 間 体 を経 由 す る反 応 機 構 で 統 一 され 得 セ ス の よ う な 二 段 酸 化 法 が特 許 文 献 に は現 わ れ て い る

る。 が,反 応 性 が 乏 し くて実 用 性 は全 くなか っ た。

な お これ らの錯 体 に類 す る ビニ ル水 銀 の酢 酸 エ ス テ ル 気 相 プ ロ セ ス も 同 様 一 段 酸 化 法 に よ りBayer14),
が ジ ビニ ル水 銀 と酢 酸 か ら合 成 され 且 つ 単 離 さ れ て お National Distillers15)の二 社 が 無 レ ド ック ス 触 媒 系 で 開

り,こ れ を加 熱 す る と酢 酸 ビニ ル と金 属 水 銀 に分 解 す る 発 に成 功 した。
との 報 告 が あ る8)。亜 鉛 で は 不 安 定 で 単 離 さ れて い な い (式11)の 反 応 の 主 触 媒 は 第8族 の 白金 族 元 素 に 限 ら

が。 れ て お り,中 で もパ ラ ジ ウ ムの 活 性 が 最 もす ぐれ て い て
そ の 活 性 種 は2価 の カ チ オ ン状 態 で あ る。 助 触 媒 は酢

(5) 酸 を ア ニ オ ン化 す る金 属 元 素 が い ず れ も有 効16,20)だ
が,中 で も ア ル カ リ金 属 酢 酸 塩 の 活性 が す ぐれ て高 い。

(6) 液 相 プ ロ セ スで は主 反 応 サ イ クル で 還 元 され た金 属 パ

以 上 の錯 体 説 に対 す る異 説 と して,酸 触 媒 的機構 に よ ラ ジ ウ ム(Pd°)を再 酸 化 す る の に次 の(式12)の よ うに銅

り,ビ ニ ル カチ オ ン を経 由 す る とい う考 え方 が あ る9)。 イ オ ン(H)と 塩 素 イ オ ンの レ ドッ クス触 媒 が必 要 で あ っ

(7) た。

(8)

(12)
(9)
亜 鉛 塩,水 銀塩 が ル イ ス酸 と して酢 酸 分 子 の イ オ ン化
を促 して プ ロ トン を発 生 し,こ れ が ア セ チ レ ンに付 加 し 気 相 プ ロ セ ス で は次 の(式13)の よ う に レ ドッ ク ス触
て ビニ ル カチ オ ン とな り,そ れ に酢 酸 ア ニ オ ンが 反 応 し 媒 は不 要 で 酸 素 が 直 接 金 属 パ ラ ジ ウム(Pd°)を再 酸 化 す
て酢 酸 ビニ ル を生 成 す る とい うの で あ る。 る。

も しそ う な ら,触 媒 に は塩 酸,硫 酸,塩 化 ア ル ミ,固


体 酸(シ リ カーア ル ミナ 系)な ど も有 効 な は ず で,な ぜ に
(13)
第2b族 金 属 塩 しか 活性 が な い の か の説 明 が で きな い。
從 って 筆 者 も,こ の アセ チ レ ン法 の 液相,気 相 の両 プ
ロ セ ス と も第2b族 の塩 に対 しア セ チ レ ンが配 位 す る錯 (式12),(式13)と も に括 れ ば(式11)に ま と まる。
(73) 酢 酸 ビニ ル 製 法 の過 去,現 在, そ して将 来 695

さ て,主 触 媒 の パ ラ ジ ウ ム は 貴 金 属 で あ る か ら,ア セ ○ 触 媒13,20);塩 化 パ ラ ジ ウ ム1molに 対 し 塩 化 銅(H)

チ レ ン 法 の 亜 鉛 に 比 べ て1,000倍 以 上 の高 価 格 ゆ え に 50mol,酢 酸 銅(H)50mol,酢 酸 ナ ト リ ウ ム(ま た は リ

触 媒 の 原 単 位 は1/1,000以 下 で な け れ ば な ら なか っ た。 チ ウ ム)100mol,の 比 率 が 適 当 で,こ れ ら を酢 酸

具 体 的 に 云 え ば パ ラ ジ ウ ム1kgの 消 費 に 対 して 酢 酸 ビ ニ 1,000∼3,000molに 懸 濁 又 は溶 解 させ る 。塩 素分 は徐
ル450tの 生 産 性,即 ち パ ラ ジ ウ ム の1g-atom当 り55 々 に 消 粍 す る か ら 塩 化 水 素 の 注 入 に よ り補 給 す る 。

万molの 酢 酸 ビニ ル の生 成 を要 す る計 算 に な っ た。 ○ 反 応 成 績17'18'20);生 成 速 度;酢 酸 ビ ニ ル は4∼6

こ の た め に は 触 媒 の 寿 命 が1年 な らばパ ラジウムの mol/1-hr.ア セ ト ア ル デ ヒ ド は5∼2mol/1-hr.パ ラ

Turn Over Number(TON)が70VAcmol/Pd g-atom・hr ジ ウ ム 触 媒 のTurnOverNumberは300∼800VAc-

以 上 と相 当 な 高 水 準 の 触 媒 効 率 が 工 業 化 の た め に 必 要 と mol/Pdg-atom・hr,酢 酸 ビ ニ ル:ア セ トア ル デ ヒ ド

判 断 さ れ た 。 液 相,気 相 の 両 プ ロ セ ス と も に,と に角 こ の 生 成 モ ル 比 は1:0.8±0.5.単 流変化率 はエチ レン

の バ リア ー を ク リヤ ーす る こ と に最 大 の 試 練 が あ った 。 は3∼5%,酸 素 は50∼60%,酢 酸 は30∼40%.選

3.1. 液 相 プ ロ セ ス17,19,20) 択 率 は 酢 酸 ビ ニ ル と ア セ ト ア ル デ ヒ ドの 合 計 量 に対 し
○ 反 応 器;ガ ス 連 続 吹 き込 み 式 の 気 泡 塔 ま た は 液 柱 ガ ス エ チ レ ン は90%,酢 酸 は95%以 上.副 生 物 は 二 酸化

リ フ ト塔,材 質 は チ タ ン,ハ ス テ ロ イ,ジ ル コ ン等 の 炭 素,エ チ リ デ ン ジ ア セ タ ー ト,ブ テ ン,酢 酸 ブテ ニ


耐塩素金属 ル,酢 酸2-ク ロ ロ エ チ ル,シ ュ ウ 酸(シ ュ ウ酸 に よ る

○ 反 応 条 件18,20);反 応 温 度115∼125℃,反 応 圧 力30 銅 イ オ ン の 不 溶 化 が 触 媒 減 活 の 要 因)


∼40気 圧
,反 応 ガ ス 組 成 は エ チ レ ン95Vol%,酸 素 ○ 原 単 位17,19)(酢 酸 ビ ニ ル1ton当 り,酢 酸 は 自給 とす

5Vol%.ガ ス 吹 き 込 み 速 度 は 反 応 液 体 積 に 対 し毎 時 る).エ チ レ ン845kg,酸 素495Nm3.パ ラ ジ ウム

1,500∼3,000倍(標 準 状 態,N.T.P.に 換 算).生 成 2.7g(換 算 値),ス チ ー ム5.8ト ン,電 力310KWH

し た 酢 酸 ビ ニ ル,ア セ トアル デ ヒ ドは この過 剰 ガ ス に ○ フ ロ ー シ ー トは 図4に 示す。

伴 な わ れ る蒸 発 捕 集 に よる 。

Fig. 4 Vinyl acetate process based on ethylene (liquid


phase) .
こ の 液 相 プ ロ セ ス の 特 長17,20)は1)酢 酸 も ア セ トア 逆 に 問 題 点20,21)は1)塩 素 イ オ ン が不 可 欠 で あ る か
ル デ ヒ ドの 併 産 で 自給 し得 る こ と。2)パ ラジウムの原 ら 腐 食 性 が 激 しい 。 そ の た め に プ ラ ン ト コ ス トが 高 価 で

単 位 が 少 な くて 済 み,反 応 速 度 も早 く,反 応 熱 の 冷 却 も あ っ た だ け で な く腐 食 ト ラ ブ ル の た め に,こ れ を工 業 化


容易。 し たICI,Celanese,徳 山 石 油 化 学 の 三 社 の プ ラ ン トは い
696 有 機 合 成化 学 第45巻 第7号 (1987) (74)

ず れ も稼 働2∼3年 に して 操 業 停 止 した22)。2)酢 酸 自 ○触 媒;主 触 媒 は 金 属 パ ラ ジ ウ ム ま た は酢 酸 パ ラ ジ ウ

給 能 力 は酢 酸 を リサ イ ク ルす る ポ リ ビニ ル アル コー ル の ム.助 触 媒 は 酢 酸 ア ル カ リ(特 に カ リ ウ ム ま た は セ シ

企 業 に と って は か え っ て お 荷 物 に な る。3)副 生 物 の種 ウ ム)。 二 次 的 助 触 媒 は 金,カ ド ミ ウ ム,銅,鉄,ビ

類 が 多 く蒸 留 コス トもか か り,モ ノマ ー 品 質 もク リー ン ス マ ス,バ ナ ジ ウ ム な ど の 金 属 ま た は 塩 類24),担 体

で な い。(し か しモ ノ マ ー と して の重 合 活 性 は ア セ チ レ は シ リ カ(BET面 積 約200m2/g)


ン法 の 気 相 流 動触 媒 式 の場 合 に劣 らな か っ た 。) ○ 反 応 成 績20,24);触 媒 の 寿 命1∼3年,空 時 収 量200

なお,国 内 で 唯 一 の 液相 プ ロセ ス の工 場 で あ っ た徳 山 ∼1
,000g-VAc/1-cat・hr,TurnOverNumber80∼
石 油 化 学 の 反応 器 は1/8inch厚 さの チ タ ン張 りで,直 径 180mo1-VAc/Pdg-atom・hr,反 応転化 率 エチ レン
3.3m,高 さ約20mの 反 応 塔 で あ っ た 由19)。1968年 春 10∼15%,酢 酸20∼30%,酸 素70∼80%,選 択率
よ り稼働 開 始 し翌 年 春 に は腐 食 に よ り反 応 ガ スが 洩 れ て エ チ レ ン90∼95% ,酢 酸98∼99%
爆 発 事 故 を起 し,一 且 は復 旧 した が1971年9月 に操 業 ○ 副 生 物 の 副 生 率(消 費 エ チ レ ン に 対 し);二 酸 化 炭 素 は

停 止 して い る22)。 5∼8%,ア セ ト ア ル デ ヒ ド0.5∼1%,酢 酸 エ チ ル,


3.2. 気 相 プ ロ セ ス17,1920,23,24) 酢 酸 ブ チ ル,ブ テ ン,エ チ リデ ン ジ ア セ タ ー トな ど
○反応 器;縦 型 の多 管 式 反 応 器(触 媒 充 愼 管 の 内径25∼
0.1%以 下。
50mmφ,管 長5∼15m).材 質18-8ス テ ン レス鋼. ○ 原 単 位(酢 酸 ビ ニ ル1tonあ た り);パ ラ ジ ウ ム2∼3g

○反 応 条 件;反 応 温 度140∼190℃,反 応 圧 力6 .5∼8.7 (換 算),エ チ レ ン360∼390kg,酢 酸710∼740kg,


気 圧,反 応 ガ ス組 成 は 酸 素7Vol%,酢 酸 蒸 気20∼ 酸 素220∼250kg,電 力200∼400KWH,蒸 気3.0∼
30Vol%,エ チ レ ン63∼73Vol%,反 応 ガ ス空 間速 度 5.8ton
1,000∼4,000hr-1 29) ○ フ ロ ー シ ー トは 図5に 示 す。

Fig. 5 Vinyl acetate process based on ethylene (vapor


phase) .
特 長 は1)無 ハ ロ ゲ ン系 の た め 装 置 材 料 は ス テ ン レ ス 問題 点 1)触 媒 層 の 発 熱 密 度 が 前 述 の 空 時 収 量 値 の
鋼 で 充 分 耐 え る 。2)副 生 物 は種 類 も量 も少 な く,モ ノ 場 合,128∼640kcal/1-cat・hrの 激 し い発 熱 状 態 に な
マ ー と して の 品質 は最 良 で あ る。3)触 媒 寿 命,空 時 収 量, って い る。 だか ら と云 って 貴 金属 担 持 触 媒 で あ る た め に
触 媒 原単 位 な どは初 期 の比 よ り数 倍 向 上 して,液 相 プ ロ 摩 粍 飛 散 ロ ス が さけ ら れ な い流 動 触 媒 に は踏 み 切 れ な
セ ス に 追 い つ き追 い越 した。 な どの3点 で あ った 。 いo
(75) 酢 酸 ビニ ル製 法 の過 去,現 在, そ して将 来 697

複 雑 で 精 密 な構 造 の 多管 式 反 応 器 に よ り固 定 触 媒 の 除 して い る。
熱 促 進 を計 ら な け れ ば な ら な か っ た 。2)反 応 ガス を 3.3.2. 高 活 性 触 媒 の 開 発 こ の気 相 プ ロ セ ス が 工 業 化
150。C以 上 に予 熱 して酸 素 を爆 発 限界(例 え ば8.74atm, さ れ た後 も貴 金属 触 媒 の宿 命 と して更 に高 活 性 化 へ の追

gauge.で7Vol%)近 くの濃 度 に 混 合 す る か ら爆 発 の 危 険 求 が 続 け られ た 。 そ の 最初 の試 み は金 属 パ ラ ジ ウ ム ま た
が 大 き い。 事 実1978年,DuPont社 の 年 産15万 トンの は酢 酸 パ ラ ジ ウム を多孔 性 担 体 粒 子 の表 皮 層 に集 中的 に
プ ラ ン トが爆 発 し,半年 以 上 操 業 停 止 した事 故 が あ っ た。 担 持 させ て,そ の粒 子 の 中心 部 分 に は担 持 させ な い よ う
触 媒 の 減 活 原 因 とそ の 対 策 と して は1)ア ル ミナ 系 な構 造(略 して ス キ ン付 け)の 触 媒 に よ り空 時 収 量 を
の 担 体 で は酢 酸 に よ り腐 食 さ れ て多 孔 性 が 崩 れ る ため の 300g/1・hrま で 向 上 させ た 事 に 始 まる27,28)(1967)。
活 性 減 退 が さけ られ な い。 耐 酢 酸 性 の シ リ カ,チ タニ ア この 方 法 によ る触 媒 高 活性 化 が益 々 エ ス カ レー ト して,
な ど の担 体 に 替 え る こ とで 解 決 。2)パ ラジウム分の凝 パ ラ ジ ウ ム と金 の 合 金 を ス キ ン付 け した 触 媒 に よ り

集 進 行 によ り減 活 す る が,こ れ の抑 制 に は反 応 条 件 の マ 1976年 頃,Bayer社 とDuPont社 が 空 時 収量 が600g/1・


イ ル ド化 とか,前 述 の2次 的 助 触 媒 の添 加 が 有 効 と さ hr,Turn Over Number 150mol-VAc/Pdg-atom・hr,
れている。 と そ れ まで の2倍 に 向 上 させ 得 た29,30)。他 方 酢 酸 パ ラ
3.3. 気相 プ ロセス用触 媒 の新動 向 ジ ウ ムー酢 酸 カ ド ミウ ム系 の塩 タ イ プ の触 媒 の方 もそ の
3.3.1. 主 触 媒 の 担 持 形 態 の 変 遷 気 相 プ ロ セ ス も最 初 担 持 率 を増 す こ と に よ り1973∼5年 頃 にHoechst社 に
は塩 化 パ ラ ジ ウム ー
塩 化 銅-酢 酸 ア ル カ リを活 性 炭 に担 持 よ り空 時 収 量 が900g/1・hr31)に 達 し,更 に1978年 に
させ た 含 ハ ロ ゲ ン系 の 塩 タ イ プ の触 媒13,14,16)で あ っ は担 体 に特 殊 な形 状 即 ち星 形 断 面 の さ お状 の 粒 体 の もの
た。 この タ イ プの触 媒 で は塩 素 イ オ ンに妨 害 され て 極 め を用 い る こ とに よ り空 時 収 量1,000g/1・hr,Turn Over
て 低 活 性 で あ っ た が120時 間 の反 応 運 転 後 に活 性 が 昇 Numberに して182mol-VAc/Pdg-atom・hrの 超 高 活性
り始 め て空 時 収 量 が90g-VAc/1-cat・hrに 達 した 。 こ に到 達 した32)。
れ は塩 素 イ オ ンの 大部 分 が副 反 応 で消 費 さ れて 触 媒 層 か (現存 設 備 で 冷 却 可 能 な の は 空 時 収 量600gr/1・hrが 一
ら流 失 した た め で あ る 。 しか し完 全 除去 に至 ら なか った 応 の 実用 限界 と考 え られ る。)
の か,触 媒層 内 に異 常 熱 点 が頻 発 し反 応 温 度 が 不 安 定 と 3.4. 反応機構 こ の 酢 酸 ビ ニ ル合 成 反 応 の エ チ
な り,再 び活性 も低 下 し始 め て,実 用 性 は まず 期 待 で き レ ン法 の 主 触 媒 は既 に述 べ て い る よ う に 第8族 の白金
なか っ た。 族 元 素 に 限 ら れ て お り,そ れ 以 外 の 遷 移 金 属 元 素 は ニ ッ
そ の 後 新 ら しい 概 念 と印 象 付 け ら れ る金 属 パ ラ ジ ウ ケ ル,コ バ ル ト,鉄 の 第8族 卑 金 属 元 素 も含 め て活 性
ムー酢 酸 カ リ ウム ーア ル ミナ ま た は シ リカ担 体 系 の 触 媒 が が全 く無 い の で あ る。
現 わ れ,活 性 と選 択 性 の 両 方 と も に 良 好 な こ と を示 し これ の 素 反 応 は 液 相 プ ロ セ ス に は前 述 の(式12)で,
た15,16)。 気 相 プ ロ セ ス に は(式13)で そ れ ぞ れ示 さ れ て い る。
こ れ は"W.Kroenig触 媒"15)と も い うべ き新 タ イ プの これ らの触 媒 の レ ド ックス サ イ クル を図6に 示 す 。
触 媒 系 で,レ ドッ クス触 媒 を全 く必 要 とせ ず,無 ハ ロゲ Ac means CH3CO radical.

ン系,無 銅 系 で あ って も気 相 中 の酸 素 が 担 体 上 に分 散 し

た金 属 パ ラ ジ ウム の微 粒 子 を直 接 酸 化 し得 る こ と を示 し
た もの で あ る 。 この金 属 パ ラ ジ ウ ム系 触 媒 に よる 気 相 プ
ロ セ ス はBayer,Hoechst,Knapsack三 社 の協 同 開

発17,18)に よ り,空 時 収 量 が初 期 の50g/1・hrか ら100,


更 に150∼200g/1・hrと 向上 した金 属 パ ラ ジ ウ ムー酢 酸
力1ハ シ リカ担 体 系 の触 媒 で工 業 化 ノ ウハ ウ を確 立 した

(1966年)。
他 方H.Ferrnholzら(Hoechst社)26)は 酢 酸 パ ラジ ウ
ムー酢 酸 カ ド ミウ ムー酢 酸 ア ル カ リーシ リカ担 体 系 の塩 タ

イ プ触 媒 で も無 ハ ロ ゲ ン系 な ら ば空 時 収 量 が186g/1・
hrの 活 性 に なる こ と を示 した(1967年)。 筆 者 ら も酢 酸
パ ラ ジ ウ ムー
酢 酸 カ リーシ リカ担 体 系 だ けで 担 持 方 法 と担
Fig. 6 Redox system of vinyl acetate synthesis based on
体 の 改 良 に よ り115∼255g/1・hr25,28)の 活性 を追 体 験 ethylene.
(Ac means CH3 CO radical.)
698 有機合成化学 第45巻 第7号 (1987) (76)

図6に お け るPd2+→ ←Pd° の酸 化 還元 サ イク ル を 以 上 の よ うな 反 応 中 間体 と して の パ ラ ジ ウ ム塩 エ チ

詳 し くみ る と,こ の パ ラ ジ ウ ム イ オ ン(H)に エ チ レ ンが レ ン錯 体 は単 な る考 察 で な く,実 験 に よ り次 の よ う に単


π配 位 し(Zeise塩 の 電 子 供 与 と電 子 逆 供 与 の 二 重 配位 結 離 さ れ て い る35)。即 ち 塩 化 パ ラ ジ ウ ム をベ ンゼ ンな ど

合 の こ と),π 錯 体 を 形 成 す る 。 こ れ に 酢 酸 ア ニ オ ン の 無極 性 溶媒 に け ん濁 させ,常 温 で か くは ん しなが らエ

(AcO)-が 配 位 子 の エ チ レ ン に求核 的 に付 加 して σ錯体 チ レ ン を通 じ た後 沈 殿 を 消 別 す る と[(C2H4)2PdC12]と


とな り,こ れ が分 解 して酢 酸 ビニ ル と金 属 パ ラ ジ ウ ム と い う錯 化 合物 を得 た。 しか も単 離 さ れ た錯 体 は,氷 酢 酸

を 生 成 す る 。 図7に この 経 過 を気 相 プ ロ セ ス の 場 合 に 溶 媒 中 の酢 酸 ナ トリウ ム の共 存 下 で 酢 酸 ビ ニ ルの 生 成 が
つ き示 した。 認 め られ た35)。

(19)

以 上 の パ ラ ジ ウム イ オ ン(H)を 活 性 種 とす る錯 体 触 媒
的 な反 応 機構 は液相,気 相 両 プ ロ セ ス に共 通 性 の あ る普
遍 的 な機 構 で あ る 。 これ は 原 型 の エ チ レ ン法 ア ル デ ヒ ド
即 ちSmidtの 錯体 触 媒 の 変 形 な が ら原理 的 に は共 通 した
機 構 で もあ る。
とこ ろが 液 相 プ ロセ ス が パ ラジ ウム イ オ ン(H)の 錯 体

機 構 で あ るの は認 め る が,気 相 プロ セ ス で は 金属 パ ラジ
ウ ム(0)に エ チ レ ン,酸 素,酢 酸 な どが 解 離 吸 着 した の

Fig. 7 Reaction mechanism of vinyl acetate process が 活 性 種 で あ って,次 式 の よ う に液相 プ ロセ ス とは違 っ


based on ethylene. て い る とす る異 説36)が あ る。
(Ac means CH3CO radical.)
な お,液 相 プ ロセ スで は塩 化 パ ラジ ウム が酢 酸 溶 液 中
で は 酢 酸 パ ラ ジ ウ ム に転 化 しそ の 後 は 図7の 経過 をた
どる。
B.Samanos33)ら は気 相 プ ロ セ ス の 機 構 を次 式 の よ う (20)
に表 して い る が結 果 的 に は同 様 な考 え方 で あ る 。
(14)
(15)

(16)

(17) こ の説 は要 す る にパ ラ ジ ウ ム金属 が 無 差 別 に解 離 吸 着

R.Jira34)も 気 相 プ ロ セ ス の金 属 パ ラジ ウ ムー
担 体触媒 (=化 学 吸 着)能 を発 揮 す る とす るadhocな 考 え方 で あ
は 液 相 プ ロ セ ス と 同様 に原 子 価 が2価 の パ ラ ジ ウ ム種 る。 も しそ う な ら第8族 の 白 金族 以 外 の ニ ッケ ル,銅,

を経 由 して い る と述 べ て次 の趣 旨 の式 を提 案 して い る。 銀,鉄,タ ン グス テ ン な どの 金属 態触 媒 も この エ チ レ ン
法 気 相 プ ロ セ スの 主 触 媒 に なれ そ うな もの で あ る 。
そ の他,空 時 収 量 が1,000g/1・hrを こす 高 活 性 に ま
で発 達 した塩 タ イ プの 酢 酸 パ ラ ジ ウム 系触 媒 の存 在 を ど
(18) う考 え た ら よ いの か,酸 素 の 絶対 量 が この 反応 速 度 に支
配 的 で あ る の は なぜ なの か,金 属 パ ラ ジ ウム系 触 媒 の使
用 開 始 の初 期 に低 活 性 の 誘 導 期 が あ る の は なぜ か,等 々
の疑 問 が 続 出 して くる 。 筆 者 と して は この 説 に賛 成 で き
(77) 酢酸 ビニ ル 製法 の過 去,現 在, そ して 将 来 699

な い理 由 は以 上 の よ う な諸 点 にあ る 。 る。
こ の こ とか らHalcon法 の カ ル ボ ニ ル系 錯 体 触 媒 か ら
4. C1 化 学 に よ る 将 来 方 向
逆 にEDAで な くて酢 酸 ビニ ル直 接 合 成 の 可 能 性 は全 く
原 油 お よ び エ タ ン系 天 然 ガ ス の 枯 渇 が さ け ら れ な い 否 定 で きない もの が あ ろ う。
21世 紀 の 酢 酸 ビ ニ ル の 原料 源 につ い て は1)合 成 ガス 4.2. エ チ レン原 料 源 の メ タ ン系 天然 ガ スへ の 転
か らエ チ リデ ン ジ ア セ ター ト経 由 の酢 酸 ビ ニ ル(Halcon 換 現 時 点 で 原 油 に比 べ て 埋 蔵 量 で 同 量,寿 命 的 に
法)2)メ タ ン系 天 然 ガ ス の2量 化 に よ る エ チ レ ン資 源 は2∼3倍 とさ れ て い る メ タ ン系 天 然 ガ ス をエ チ レ ン源
の 拡 大(Benson法 また は酸 化 カ ップ リ ン グ法)の 両 方 法 とす る新 プ ロセ ス で あ る 。 この"メ タ ン法 エ チ レ ン"に は
に よ り一応 の展 望 は 開 け て い る。 塩 素 ラ ジ カ ル触 媒 法 と酸 化 カ ッ プ リ ン グ法 の両 方 法 が現
4.1. 合 成 ガ ス か らの エ チ リ デ ン ジ ア セ タ ー ト経 わ れ た。
由法 a) 塩 素 ラ ジ カル触 媒 法(Benson法)39)
○第1段Halcon法EDA合 成37)

(23)
(21)
反 応 温 度150℃,反 応 圧 力70気 圧,反 応 熱34.5kcal

触 媒 は 酢 酸 パ ラ ジ ウ ム1.7%,ヨ ウ 化 メ チ ル34%, メ タ ンの エ チ レ ンへ の選 択 率 は60∼63%,他 のオ レ


ト リ フ ェ ニ ル ポ ス フ ィ ン17%を 酢 酸 メ チ ル47%に 溶 フ ィ ンへ は2∼5%,ベ ンゼ ンへ は10%で ある。 この
か す か,三 塩 化 ロ ジ ウ ム1部,ヨ ウ化 メ チ ル20部, プ ロ セ スの 経 済 性 は現 行 の ナ フサ分 解 法 よ りはす ぐれ て
3-ピ コ リ ン3部 を 酢 酸 メ チ ル60部 に とか す。 反 応 成 い るが,エ タ ン脱 水 素 法 よ りは劣 る とい わ れ て い る40)。

績 は 酢 酸 メ チ ル の 変 化 率85%,エ チ リデ ンジ ア セ ター b) 酸 化 カ ップ リ ング法(金 属 酸 化 物 触 媒 によ る)
トへ の 選 択 率(対 酢 酸 メ チ ル)は83%37)で あ る。 反 応
(24)
装 置 材 料 は チ タ ン,ハ ス テ ロ イ,ジ ル コ ンな どの耐 ハ
ロ ゲ ンの高 級 耐 食 性 金 属 材 料 を必 要 とす る 。 大 塚,森 川41)ら は希 土 類,特 にサ マ リウ ム 系 の 酸 化
○ 第2段Celanese社 法EDA分 解38) 物 触 媒(Sm203)に よ りC2選 択 率 が93%に 達 した と報
告 して い る 。Lunsfordら42)お よ び藤 元,富 永43)ら は
マ グ ネ シ ア担 体 に アル カ リ塩 を担 持 させ た触 媒 系 を検 討
(22)
し,メ タ ンの転 化 率42%でC2選 択 率45%を 得 て い る。
反 応 温 度135℃,反 応 圧 力 常 圧,反 応 熱23kcal。 触 森 山,岩 松44)ら は バ リウ ム,ス トロ ンチ ウ ム の 炭 酸
媒 はベ ンゼ ンス ル ホ ン酸0.5mol/1を 無 酢 に溶 か す 。 反 塩 触 媒 に よ り低 酸 素 条 件 下 でC2選 択 率99.5%を 報告 し
応 成 績 は反 応 速 度125g-VAc/1-hr,変 化 率80%,選 て い る 。 そ の 他LaAlO3触 媒,鉛-銀 複 合 触 媒,ZnO-

択 率 は酢 酸 ビニ ル へ90%,ア セ トアル デ ヒ ドへ10%。 Li20系 触 媒 に よ っ て も検 討 さ れ て い る。 酢 酸 ビニ ル に


な お,こ の 第2段 の プ ロ セ ス は1952年Celanese社 留 ま らず,多 くの エ チ レ ン誘 導体 に と って既 に仕 上 つ て
が アセ トアル デ ヒ ドと無 水酢 酸 か ら合 成 したエ チ リデ ン い る製 法 技 術 を生 か す 上 で エ チ レ ン自体 の原 料 源 転 換 こ
ジ ア セ ター トか ら酢 酸 ビニ ル を 製造 す る の に テ キサ ス州 そ,21世 紀 へ か け て の 重 要 な 開 発 課 題 で あ る こ と は多
で工 業 化 した プ ロセ ス で,現 在 で もメ キ シ コ に移 転 して 言 を要 しま い。
稼 働 して い る 旧技 術 で あ る 。 第1段 のCl化 学 のHalcon
5. お わ り に
法 との組 合 せ で 再 注 目 され た もの で あ る が,そ の新 しい
複 合 プ ロ セ ス も,反 応 効 率 が低 く蒸留 が複 雑 で装 置 費 と 以 上 の よ うに1912年 以 来 の酢 酸 ビニ ル製 法 の うつ り
エ ネ ル ギ ー費 が か さみ,原 油価 格 が少 々 暴騰 して も現 行 変 りの跡 を た ど って み た 。即 ち アセ チ レ ン法 か ら エ チ レ
の エ チ レ ン法 気 相 プ ロ セ ス に対 す る競 争 力 は まず な さそ ン法 へ,そ して21世 紀 へ か け て のC1化 学化 の胎動 に

うで あ る。 も触 れ て み た。 思 え ば常 に最 善 を望 ん で止 まぬ,技 術 そ
しか しア セ チ レ ン法 で もエ チ レ ン法 で も酢 酸 ビニ ル合 の もの の 中 に秘 め られ た 業(こ う)の よ うな執 念 の底 流 に

成 用 の触 媒 の修 飾 剤 を少 し変 える だ けで エ チ リデ ンジ ア 触 れ た思 いで あ る。 個 人 的 に も この酢 酸 ビニ ル とつ きあ
セ ター ト合 成 用 に転 化 で きた こ とが 技 術 史 上 示 され て い って40年 近 くに な り,そ の 間 の 懐 旧 の 情 禁 じ が た い
700 有 機 合 成化 学 第45巻 第7号 (1987) (78)

ま ゝに筆 を とっ た 次 第 で あ る 。
(1972)
(昭和61年11月18日 受 理) 22) 中 村 征 四 郎,安 井 昭 夫,有 合 化,34,969(1976)

23) W. Schwerdtel,Chem.Ind., 1968, 1559; Hydrocar-


文 献 ban Process,47, 187 (1968) ; Chem.Ing. Tech.,40,
1) 大 門 正 輝,大 前,化 学 工 業,606(1961年7 781 (1968)
月) 24) W. Schwerdtel,G. Scharfe,"26 th D.G. M. K.Con-
2) 満 谷 昭 夫,触 媒 工 学 講 座9,触 媒 反 応(4)石 油化 gress at Berlin" (1978)
学 補 遺p.29∼55(1966年2月,地 人 書 館) 25) 平 林 正 美,徳 山 信 一,日 特641,979(1968)

3) 大 塚 斉 之 助,村 橋 俊 介,日 化 誌,75,884(1954) 26) H. Fernholz, H. J. Schmitz, F. Undel (to Hoechst

4) 古 川 淳 二,小 笹 英 夫,"ポ リ ビ ニ ル ア ル コ ー ル", AG),“ú“ÁŒö•º45-41568 (1967)

27) 中 村 征 四 郎,安 井 昭 夫,日 特公 昭48-10135


p.27(1955)
5) 古 川 淳 二,大 前劦,小 笹 英 夫,植 木 岩 雄,永 田 (1967)

進 治,松 山 卓 蔵 ら,高 分 子 化 学,8,111,118 28) 大 前劦,山 本 博,平 林 正 美,日 特 公 昭

(1951) 46-13368(1967)

6) 古 川 淳 二,小 笹 英 夫,山 下 普 三,高 分 子 化 学,9, 29) G. Scharfe, “ú“ÁŒö•º 52-88286 (1976)

240(1952) 30) T. C. Bissot, “ú“ÁŒö•º 52-124491 (1976)

7) 大 塚 斉 之 助,日 化 誌,75,1115(1954) 31) H. Fernholz,“ú“ÁŒö•º 50-52014 (1973); 51-

8) D. J. Foster, E. Tobler, J. Am. Chem.Soc.,82, 851 112015 (1975)

(1961) 32) F. Undel, et al.,“ú“ÁŒö•º 54-128490 (1978)

9) 山 田 昇,竹 内 豊 三 郎,日 化 誌,74,1013(1953); 33) B. Samanos, P. Boutry, R. Montarnal, J. Catal., 23,

75, 977, 1093 (1954) ; 76, 722 (1955) ; 78, 252 29 (1971)

(1957) 34) R. Jira, "Ethylene" by Miller, 942 (1969)

10) I. I. Moiseev,M. N. Vargaftik, J. K. Syrkin, Dokl. 35) 松 浦,鈴 木(良),反 応 別 実 用 触 媒,p.465(1970)

Akad.Nauk,USSR,133, 377 (1960) 36) S. Nakamura, T. Yasui, J. Catal., 17, 366 (1970)

11) D. Clark, P. Haydon,W. D. Walsh, W. E. Jones, 37) N. Ritzkarla, C. N. Winnig,“ú“ÁŒö•º 51-

BP, 964,001 (1960) 115409 (1975)

12) W. Riemenschneider,GP, 1,191,366 (1961) 38) H. F. Oxley, E. B. Thomas, G. B. Mills, USP, 2,

13) 吉 岡,大 前,松 代,山 本,中 村,日 特496,214 425, 389 (1947)

39) Chem. Eng., Feb. 22, 1982, p. 19


(1961)
14) H. Holzrichter, W. Kroenig, B. Frenz, GP, 40) Chem. Week, Jun 22, 1983, p. 20

1,185,604 (1962) 41) K. Otsuka, K. Jinno, K. Morikawa, Chem. Lett.,

15) R. E. Robinson,USP,3,190,912 (1962) 1985, 499

16) 矢 野,満 谷,田 中,日 特483,209(1961) 42) D. J. Driscoll, W. Martir, Ji- X. Wang, J. H. Luns-

17) H. Krekeler,W. Kroenig,"7th World Petro. Cong." ford J. Am. Chem. Soc.,107, 58 (1958)ˆÉ“¡, J.

(1967) Mexico H. Lunsford, •G”}, 27,443 (1985)

18) H. Krekeler, H. Schmitz,Chem.Ing. Teck.,40, 785 43) 富 永,藤 元 ら,第16回 石 油 化 学 討 論 会,名 古

(1968) 屋,(1986)
19) 安井昭夫 石 油 学 会 誌,12,851(1969) 44) 森 山,岩 松 ら,第58回 触 媒 討 論 会,名 古 屋,
20) 吉 岡 節 夫,大 前劦,石 油 学 会 誌,15,459(1972) (1986)
21) T. Ohmaye,Chem.Econ.& Eng. Rev.,4, N 011, 47

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