You are on page 1of 1

ソーシャルネットワーキングサービスから家庭医が得るもの

1)朝倉健太郎 2)紺谷 真 1)健生会 大福診療所 2)湖北グリーブクリニック

近年、ITツールが汎用化されるようになり、診療や生涯教育における有用性が高まってきている.ソーシャルネットワーキングサービス(以下
SNS)は新たなコミュニケーションツールとして爆発的な広がりを見せており、医療業界においてもそのユーザは増加の一途をたどっている.
孤軍奮闘する家庭医にとっても日常的なコミュニケーションツール、生涯学習ツールの一つとして浸透しはじめている.

目的 家庭医はSNSを用いてどのようなことを考え議論しているのか明らかにし、SNSの活用法の可能性について検討する.

方法 【アプローチ法】 本研究は、家庭医のSNSの活用法についての仮説生成を目的とするため、モデル構築に適した修正版グラウン
デッド・セオリー・アプローチ(木下2003)を用い、メタ研究法としてSCQRM(西條2007)を用いた.
【対象者と理論的サンプリングの根拠】 SNSの一つとして広がっている「facebook」に繰り広げられている家庭医のコミュニティの
中から、後期研修医、若手指導医、ベテラン指導医の立場にある3名を任意に抽出、2010年2月から2010年3月までの2ヶ月間に
投稿されたメッセージ及びそれに関する議論内容を分析対象とした.SNSの利用の仕方は、家庭医としての経験、立場によって異
なる可能性があると考えられ、後期研修医、若手指導医、ベテラン指導医より1名ずつ選出した.
【分析法】 3名の発言をもとに分析ワークシートを作成(図2)、内容の趣旨によってカテゴリー毎に分類、家庭医がどのようにSNS
を利用しているか、発言に対して他のSNS利用者(フォロワー)がどのように応答するかについて分析し、モデルを作成した.(図1)

結果 図1. 家庭医がSNSをどのように利用するか

発言者による発信 フォロワーの反応
家 日 日 構 医 日 宣 学
庭 常 常 想 療 常 伝 び *コメント
医 臨 臨 ・ ・ ・ ・ や ・共感、励まし
ア 医 プ お
・ 床 床 イ ラ 研
家 学 知 ・支持的な発言
庭 の の デ に イ 修
疑 気 ら ・同様の経験の共有
医 ィ つ ベ せ に
問 づ ア い ー つ ・発言の分析 (深い洞察、違った視点からの洞察)
療 、 き て い
に の ト て ・解決のヒント、提案
経 ・ 交 の
つ 験 体 ・新たな展開
い 制 流 開
て の 示 <家庭医の特徴>
の 共 ・ 曖昧な領域を扱う
マ *「いいね!」による共感、同意の意思表示
理 有 ネ 教育的親和性を持つ
論 ジ 孤軍奮闘する環境
・ メ 相互関係を重視
考 ン
察 ト 新たな議論の
展開へ
<発言の違い> つ
サ 論 話 疑 ぶ グ
イ 文 題 問 や チ SNSが家庭医に生み出すもの
ト 引 提 き
引 供


自己洞察、振り返り モチベーションの維持
コミュニケーションの広がり (含、実社会への影響)
他に意見を求める場合、個別性 日常診療の疑問解決、感情処理の糸口
情報、新たな学び、経験、視点の共有
確信度の高さ、汎用性の高さ 構想・アイディアの交流
教育的視点、フィードバック
教育的視点からの情報発信

考察 SNSにおいて議論された内容とその広がりから、家庭医が日常的に行っている振り返り
図2. 分析ワークシートの一例 学びを垣間見ることができた.SNSの特徴はメーリングリストなど他の非同期型コミュニ
テーマ 家庭医、家庭医療についての理論・考察・情報提供
ケーションツールと比較して議論の展開が早く、同時に、的を得た深みのある議論を行えることであ
概念 家庭医、家庭医療についての理論・考察などを発信、もしくは情報についての情報発信.
る.曖昧さを対象とする家庭医にとって日常の学びや気づきをもとに振り返りを行うことは重要なこと
Roger NeighbourのThe Inner ConsultationはGPの診察を学ぶための教科書として有名ですが、 であるが、web上で他の家庭医たちとリアルタイムに行うことが可能になった結果、こうしてSNSが浸
発言内容 実は西洋東洋の哲学や思想、宗教の教養に裏打ちされた非常に深い内容を持っています.
マックウィニー、Stumbergとともに家庭医療原理派の必読本と言えるでしょう.

私の一番好きな言葉.家庭医はテキトーにやるならばこれほど簡単な仕事はない.しかし、質を
透することになったと考えられる.今後、SNSの開発と利用の中で、発言内容のプライバシー保持な
高くやるなら、これほど難しい仕事はない.(デニス・パトリシア・グレイ)
プライマリ・ケアにおいては、患者はまずIllnessを抱えて医者に相談に来ますから、解釈学や現
象学的な対応が必要になるわけで、家庭医は実は病院における医者と看護の機能を同時に発
ど安全性の観点と、自由な議論が促進されることが両立されるようさらなる発展が期待される.
揮しなければなりません.おそらくここから家庭医療の基盤となる理論を考えねばならないのと、
家庭医療の現場における医者と看護の役割に関して、さらに突っ込んだ議論ができるようにな
るのでしょう…

研究限界 今後、SNSを利用する家庭医が増加する中でSNSのコミュニティ自体に経時的な変
テーマ 日常臨床の疑問、経験の共有

概念
日常臨床の中で生じた疑問やその解決、気づき、学びなどを共有する発信.症例、診断、治療、
予後などに関して.
化が生じる可能性があり、適宜、モデルに修正を加えることも考えられる.また、今回の研究で得ら
転んで膝が痛いと別の病院に入院していた患者さんが一ヶ月後に頚部骨折と分かった.今日、
れた「SNSが生み出すもの」が、それぞれの家庭医の日常に、実際にはどの程度の影響を与えて
肩の脱臼で入院している患者さんが最近歩かないと.認知症があって痛みははっきりせず.ま
発言内容
さかと思って骨盤の写真を撮ったら頚部は大丈夫でしたが恥骨が折れていました.高齢者の外
傷は思わぬ所にも余波があります.冷や汗ものです. いるかについては、今後追求すべき課題と考えられる.
腰痛、発熱(40℃)の98歳女性が入院.フォーカス不明で、心エコーは弁膜症(+).IEできていな
いがはっきりせず(経食までは地域がら難しい)BossがIEと考えてCEZ開始.すぐ熱は下がった
*SNSの社会情報学 CMC研究の新しい方向性に関する研究ノート 内田啓太郎
が、どうも腰痛がひどいと.転んで背中打ったとのこと.この歳でこの地域なら圧迫骨折あるし
な~、でも変だな~とふと昔の症例を思い出して、腰椎MRIを撮影したら、骨髄炎でした…先入
観は怖いな~というのと、変だなって時はやっぱり変だと再認識.あ~…2ヶ月コースだ…
参考文献 *ライブ講義 質的研究とは何か SCQRMベーシック編、アドバンス編 西條剛央 新曜社
*これからはじめる医療・福祉の質的研究入門 田垣正晋 中央法規
*ライブ講義M-GTA 質的研究法 木下康仁 弘文堂

You might also like